直木賞受賞作品

【あらすじと感想】『心淋し川』第164回直木賞受賞の歴史連作短編小説

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 集英社
発売日 ‏ : ‎ 2020/9/4
単行本 ‏ : ‎ 248ページ

『心淋し川』あらすじと感想


心寂し川うらさびしがわ』は第164回直木賞受賞の歴史小説である。

時代は江戸、東京の千駄木にある心町うらまちを舞台にした連作短編集。
風通しの悪い町には様々な過去を持つ者が多く流れ着いており「何があったかきかぬのが、心町の理」とまで言われている。そんな寂れた薄暗い町で暮らす年齢も性別も様々な登場人物達の物語が、6つの短編で語られている。

育った町に居心地の悪さを感じ今すぐにでも町を出たいと願う少女、毒親と子供のしがらみ、妊娠や出産への不安、過去の出来事への後悔や執着など…各短編の主人公たちは皆閉塞感や虚無感を感じており、匂い立つような汚濁した川「心淋し川」に自分の境遇を重ねて悲嘆しながらも、それぞれの希望を見出す。

本作は「心淋し川うらさびしがわ」「閨仏ねやぼとけ」「はじめましょ」「冬虫夏草とうちゅうかそう」「明けぬ里」「灰の男」の6編からなる。

表題にもなっている「心淋し川」のあらすじを紹介しよう。

一九歳のちほ・・は荒れた家庭環境に辟易としており、親しくしている上絵師への修行をしている元吉に恋心をいだいている。その恋は一見両思いなのだが、未来の話をすると元吉の歯切れは途端に悪くなる。
ある夜、岡場所(私娼屋が集まった遊郭)近くの呑み屋で、ちほの父が若いのを殴りつけたとの情報が入る。相手の特徴を聞けば聞くほど、元吉にそっくりで青ざめるちほ。
たまらずちほは、差配の茂十もじゅうと事件の呑み屋へ駆け出したが…

生々しい人間の生が描かれた物語にはリアリティと重みが確かにあり、満足な読み応えだった。

各章毎に主人公は変わるが、登場人物たちの物語が少しずつ交差し、最後には収斂するのが本作の見どころである。特に、最後の一文はタイトルを際立たせる印象深い終わり方だった。

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 集英社
発売日 ‏ : ‎ 2020/9/4
単行本 ‏ : ‎ 248ページ

『心淋し川』著者の西條奈加とは?

著者の西條奈加(さいじょう・なか) は、1964年の北海道に生まれた。2005年に『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノべル大賞を受賞、作家デビューした。

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 新潮社
発売日 ‏ : ‎2008/9/30 (2005/11/1)
文庫 ‏ : ‎ 367ページ

以降、2012年に『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞を、2015年に『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞を、そして2021年に本作『心淋し川』で第164回直木三十五賞を受賞している。

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 集英社
発売日 ‏ : ‎ 2020/9/4
文庫 ‏ : ‎ 367ページ

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 講談社
発売日 ‏ : ‎ 2017/6/15
文庫 ‏ : ‎ 384ページ

著者は本作についてのインタビューで「今は安定した人とそうでない弱者との間ですごく分断が進んでいる。そのことが気になって、不安な境遇に置かれた人々の物語に傾いていったのかも」と語っていた。その言葉通り、家庭環境に問題を抱えるものや孤立する者が多く登場するのも本作の見どころである。

まとめ


時代小説と聞き敷居が高く感じる方もいるかも知れないが、時代小説ながら現代の東京に通ずる部分が多く、現代小説のように読み進めることができる作品だった。

著者はインタビューでも時代小説について
「現代に通じるような問題に、“時代”という緩衝材をおいて描けることが一番の利点じゃないかと思います。現代ものをそのままストレートに描くと、現実問題に直面している読者にとってはつらかったりすることがありますので、江戸時代という“時代”をおくことで、少し遠くから眺められることが一番の強みかなと思います。」と答えている。

作中に登場する人びとは皆大きな問題を抱えて入るものの、客観的な描写によって彼らの生活を眺めるように読むことができるのが本作の魅力。

芥箱みてえな町ですがね
生き直すには、悪くねえ土地でさ

時代が代わっても人間やその心は変わらない。無関心で冷たく感じる町にも希望があるという様は、まさに現代の東京にも通ずる部分ではなかろうか。

ファンタジーからミステリー、時代物まで手掛ける作者が見出した「人間の本質」が反映された本作。悩める30代や、問題に頭を抱える40代に特に読んでほしい一冊である。
時が流れても変わらない人間の本質とそれが織りなすいくつもの物語。人間の織りなすドラマや感動作が好きな方には強くおすすめしたい一冊である。

なお、本作と同年第164回の芥川賞受賞作品は『推し、燃ゆ』、第164回直木賞の候補作は『オルタネート』『汚れた手をそこで拭かない』『八月の銀の雪』『インビジブル』『アンダードッグス』であった。これらもあわせてチェックしたい。

【この記事で紹介された本 (10冊)】

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 集英社
発売日 ‏ : ‎ 2020/9/4
単行本 ‏ : ‎ 248ページ

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 新潮社
発売日 ‏ : ‎2008/9/30 (2005/11/1)
文庫 ‏ : ‎ 367ページ

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 集英社
発売日 ‏ : ‎ 2020/9/4
文庫 ‏ : ‎ 367ページ

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著者:西條奈加
出版社 ‏ : ‎ 講談社
発売日 ‏ : ‎ 2017/6/15
文庫 ‏ : ‎ 384ページ

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著者:加藤シゲアキ
出版社 ‏ : ‎ 新潮社
発売日 ‏ : ‎ 2020/11/19
単行本 ‏ : ‎ 384ページ

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著者:芦沢央
出版社 ‏ : ‎ 文藝春秋
発売日 ‏ : ‎ 2020/9/26
単行本 ‏ : ‎ 237ページ

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著者:伊与原新
出版社 ‏ : ‎ 新潮社
発売日 ‏ : ‎ 2020/10/20
単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 256ページ

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著者:坂上泉
出版社 ‏ : ‎ 文藝春秋
発売日 ‏ : ‎ 2020/8/26
単行本 ‏ : ‎ 349ページ

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著者:長浦京
出版社 ‏ : ‎ KADOKAWA
発売日 ‏ : ‎ 2020/8/19
単行本 ‏ : ‎ 400ページ

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knowsagi
埼玉県在住30代。月に50冊弱を読む読書狂。 好きなジャンルはミステリー。好きな作家は筒井康隆、江國香織、辻仁成。
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