ブックレビュー

【ブックレビュー】弁護士になるには(著:田中宏、山中伊知郎)

SUITS、リーガルハイ、CHICAGO、アイ・アム・サム、キューティ・ブロンド、郵便配達は二度ベルを鳴らす、弁護側の証人、法廷遊戯…などなど

ぼくは弁護士が活躍する作品が好きだ。

本屋をぶらぶらしていたら、この本「弁護士になるには」を見つけた。

弁護士という仕事の現実を意外と知らないことに気付き、購入してみることにした。

「率直にどうだった?」

素晴らしく良かった。

内容も書き方も切り口も素晴らしく、自分の生活を支える「法」というルールへの理解度も上がった。

弁護士という仕事をする方々が何を考え、どんな仕事しているのかをインタビュー形式で読んでいると、ドキュメンタリーの映像作品を見ているような気分になった。

書籍の基本情報

内容

格好がよくて高収入の職業と思われがちな弁護士は、過酷で危険な場面に遭遇する職業でもあり、これからは資格だけでは生き残っていけないといわれている。一方で、明確な目的があれば大きなやりがいを得ることもできる弁護士の世界を紹介する。

  • 法律の現場から[谷口太規さん=東京パブリック法律事務所/大澤美穂子さん=クレオール日比谷法律事務所/片岡詳子さん=株式会社ファーストリテイリング法務部]
  • 弁護士の世界[「弁護」と弁護士の歴史/弁護士の仕事/弁護士の活躍の場/それぞれの専門分野(会社再生のスペシャリスト=南栄一さん・南法律事務所/弁護士過疎地で活躍中=牛木純郎さん・牛木法律事務所)/弁護士の生活と収入、将来]
  • なるにはコース[適性と心構え/司法試験合格をめざす/司法修習/就職活動について]
  • なるにはフローチャート 弁護士
  • 付録 弁護士会一覧・法科大学院一覧

著者略歴

田中/宏
弁護士。1959年、東京都生まれ。1982年中央大学法学部卒業後、1994年弁護士登録(第二東京弁護士会)。曙綜合法律事務所弁護士のほか、中央大学法科大学院実務講師。大宮法科大学院大学教授。二弁法科大学院支援委員会副委員長などを務める。

山中/伊知郎
フリーライター。1954年、東京都生まれ。1978年早稲田大学法学部卒業。テレビドラマの脚本やバラエティ番組の構成などを手がけた後、「週刊プレイボーイ」「週刊アサヒ芸能」などでコラムを連載。

谷口太規弁護士

「第一章 ドキュメントー法律の現場から」では、3人の弁護士のインタビューを通じて、弁護士としての仕事がどのようなものかを知ることができる。

中でも東京パブリック法律事務所の谷口太規弁護士のインタビューは非常に学びと気づきが多く、読んでいて面白かった。

特に印象深かった箇所をいくつか、備忘のために残しておく。

地球温暖化について

国際NGOで討議する京都会議での箇所はハッとさせられた。

京都会議で見たものは、先進国と発展途上国との深刻な対立だった。先進国は、すでに開発が進んで国民も豊かになった。だから、地球温暖化を抑えるため、二酸化炭素排出量の削減を進めようとしている。
一方、貧しい発展途上国にとっては、まず自分の国の開発を進めて、困窮する国民を豊かにするのが先決であった。
その両者の利害は大きくぶつかった。
しかも、その両者の主張のどちらが正しく、どちらがまちがっているともいえない。
世の中には、そう簡単に白黒つくような問題は少ない、そう気づいたことが谷口さんをたじろがせた。
争いをせず、みんなが協力してよりより社会をつくるなんて、口で言うほど簡単ではないと感じたのである。

悪人と法律

法律は、突きつめていけば、その対立した両者を仲直りさせる「仲裁の論理」である、それを考えていけば司法試験にも通用する、と谷口さんは分析した。

この考え方は新鮮だった。全部で5人の弁護士のインタビューが読めるが、それぞれ法律の解釈やクライアントとの付き合い方が異なるのも大変興味深く、考えさせられた。

また、先輩弁護士に言われたという次の言葉は、自分の心にも強く残った。

「ぼくらが被告に罪を反省させるなんておこがましい。法曹の人間はエラい、なんて独善的なことは考えるなよ」

法律と人間

谷口弁護士の価値観を表す出来事とそこから得た学びとして、次のような言葉が挙げられていた。

ことに国選弁護人として被告人に会って強く感じたのは、どんなに凶悪な罪を犯した人間でも、話してみれば、それほど世の中で特別な人物ではないということだ。
という以上に、あまりの普通さに驚かされることのほうが多いという。

裁判官も人間であることに変わりはない。だからこそ、その心を動かせるかどうかで結果も変わってくる、と。

「法律のいいところは、公平なところなんです。たとえ金持ちだろうが、地位があろうが、法律の前では、そうでない人とのちがいはありません」

昨今、差別や個人の権利、生き方や思想に関するニュースが多く飛び込んでくる。自分自身が感じる、あるいは自分の属するコミュニティの中での善悪ではなく、法律という共通の前提で人を見ることの重要性を感じた。

前述の通り、谷口弁護士は「法律は仲裁の論理」との考えであり、そこに至るまでの様々な経験を経たことが細かくインタビューされており、読み応えがあった。

・谷口太規弁護士のTwitterはこちら

南栄一弁護士

自分の持っている弁護士像と一番近かったのは、会社の再建を扱う仕事をしている南栄一弁護士だ。

南弁護士は弁護士の仕事は「他人の代わりに、法律を使って行うケンカだ」と言っている。前述の谷口弁護士とは真逆である。

次のエピソードは気の毒だが笑ってしまった。

民事再生の申し立て後、すぐに開かれる債権者説明会で、ぼくと、倒産した会社の社長の二人が、300人の債権者の前で2時間、吊るしあげられたこともあります。怒号が飛び交って、質問に答えるたびに怒鳴られるんです。

矢面に立って正義を主張するということが、どういうことか端的に分かるエピソードだ。

インタビューで興味を持って調べてみたところ、非常に残念ながら、「南栄一弁護士(第二東京)懲戒処分の要旨」というニュースを見つけてしまった。

裁判の発生・身を削る正義

この本の中で最も印象深い箇所を引用する。

裁判官は神ではない、われわれと同じ人間である。過去や未来を透視する能力などはもっていない。
(中略)
証拠がまったく残っていなければ、ときには「神様の目から見える真実」と異なる結論が、裁判の場で下されることはありうる。そのような裁判にかかわることになった当事者は気の毒ではある。しかし、これが現代社会の裁判であり、われわれはそのようなルールで動く社会の中で生活しているのである。これがイヤだというのであれば、誰とも接点を持たないで生活するほかない。
もちろん、真実と異なる結果の裁判が横行してもいいといっているわけではない。裁判の結果を極力真実に近づけていくというのが法律家に課された使命である。しかし、われわれは神になることはできない以上、人間としての最善を尽くしていくほかない。

この部分は、「法廷遊戯」の中でも問われている。(馨の答えに近い)

最近「高瀬舟(森鴎外)」を読んだのだが、そのときに感じたのは「いかなる理由があれど殺人を犯したものは殺人者として扱う」という残酷で公平なルールのもとで、我々の社会は築かれているということだった。

ただし、マスコミは数字を取るために被告を必要以上にセンセーショナルに報じたり、面白おかしく煽ったりするものである。それに呼応してSNSで好き勝手騒ぎ立てる人達もいる。(空のヤカンは大きな音が鳴るとは言い得て妙だ)

それに結果、弁護人までが「悪人の味方をするのか」等と石を投げられることも少なくないようだ。

未来の法律家に向けて、この本はその問題に対して次のように語っている。

このような仕事は、往々にして世間から理不尽で感情的な非難を浴びることもあるが、法律家の仕事というのは一人の人間を救うためにには、100万人を敵に回してでもひるまない胆力が必要である。その人が悪いことをしたかどうかを決めるのは裁判であり、警察でも検察官でもない。ましてや、マスコミや一般大衆などではない。もしも「なんで悪い人の味方をするのか」ときかれたら「その人が”悪い”ということをあなたは自分の目で見たのか。あなたは自分を全知全能の神だとでも思っているのか」と問い返してやることだ。そういう気概をもって弁護士は闘っているのだから。

フリーランスとしての学び

フリーライターとして仕事をしている身として、牛木純郎弁護士の言葉に深く共感した。

「離婚の問題にしても、『法律にのっとって、合理的に処理できるか』が大切なのではなく、『依頼者は、どうすれば満足できるのか』をまず考えるのが大事なんです。人間の満足がどこにあるかは、法律には書いてありません。自分の人生経験を通して、相手の話のどの部分に共感できるかです」
「こういう能力は勉強だけでは身につきません。たくさんの出会いと経験から養われるのです」

また、司法試験の合格に向けた解説の項でも、次のように書かれていた。

法律家として兼ね備えておくべき「読み、書き、そして話す力」を鍛え、厳しい学修にも耐えうる体力を養成し、そして困っている人に共感できる心をはぐくむことである

プロとして仕事をするということは、能力を売るということだけではない。メリットとベネフィットは多くの場合異なるので、顧客の満足・エンドユーザーの満足、それぞれを考える力を養い、実現する能力を身につけることが中長期的に活躍していく上で大切であることは言うまでもない。

「ぺりかん社」という出版社

この本で「ぺりかん社」を知った。

文化や思想、仕事など、人間の社会生活についての出版物が多い模様。

同出版社で他の本も買ってみようと思うくらい、素晴らしい本だった。

ただHPが気になる。学生を対象にした本が多い=スマホで見ることが多い、と思うんだけど、とてもそうできるサイトではないのが本当に残念。(可能ならリニューアルに関わらせて欲しい)

まとめ

何度も言うが、素晴らしく良い本だった。弁護士を目指していない人でも楽しめるように書かれたこの本「弁護士になるには」は素晴らしい。

弁護士とは法を扱う仕事ではなく、法を通じて人間を扱う仕事だということがよく分かった。自分は論理ばかりで感情を後回しにしがちだ。内省しながら読んだ箇所もあり、特に次の2つの言葉は覚えておかねばなるまいと思った。

時代小説で有名な作家・池波正太郎の言葉を借りるとすれば、「人は良いことをしながら悪いことをし、悪いことをしながら良いことをする」ものだ。人は目立つほうだけにしか目を向けないが、法律家は目立たないほうにも目を向けなければならない。理屈を大切にしつつ、それでも割り切れないものの存在にも気を配れる力をもっていることが、適性のひとつということになろうか。

強い正義感を持った人間が弁護士になることは、非常によいことである。
しかし、「強い正義感」がときとして独りよがりになることも、肝に銘じておかなければならない。あなたが見聞きした情報は、本当に正しいのか。善悪判断についてのあなたの物差しはほんとうに正しいのか。与えられているルール、つまり法律をそのまま適用して解決すべき場面なのか。このように、常に自分を客観視できなければならない。自分の素朴な正義感のみで突っ走るだけの法律家というのは、ブレーキの壊れた車と同じで社会に迷惑で危険な存在でしかない。

シリーズに興味を持ったので、他の「なるには」も読んでみようと思う。

2020.12.04 kotae

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